記憶の彼方ー邂逅ー






プロローグ:風薫るオパーサの浜

「はん、そんなんじゃオマエ死ぬぞ」
金色の髪を赤い紐で縛った快活な少女が言う。
その金の髪は絹のように風にのって流れている。
金色の髪に深い蒼の瞳をたたえた少女の前には黒髪の少年。
二人は、今さっきであって、襲われたばかりだった。

「オマエ、こんなとこ歩いてるのに武器もなんにも持ってねーのか?」
あん?と可愛い容姿に見合わず、少女は顎をかたげた。
「これ、持ってる」
と少年が差し出したのは、銀色のスワロー。
「はん。そんなのでどうやって戦うんだ?」
その銀色のスワローを指でいじりながら少女は笑う。
「戦えねーだろ?だっせぇ」
その時、きらっと少女の腰のあたりでなにかが光った。
光を追っていくと、そこにあったのは、妖しく光る短剣。
飾りも何もない、ありの姿をさらす短剣からは赤い血がぼとぼとと滴り落ちる。
その瞳の視線に気付いて少女は、にやりと笑う。
「強いものが勝つんだよ」















1.儚き心...強き者にのまれる日





「「「熱いよー」」」
何人もの子供の声が重なる。
熱い炎が館の内部と子供達の心を焼き付くす。
あの日からいくつもの思いを溜めた家。
実験が失敗して悔し泣きをしたこと。
幼なじみを失った夜の想い。
そして、子供達と過ごした日々。
そのすべてが...いろんな色に染まっていたものすべてが。
熱い炎にのまれて消える。
おおきな朱にのまれていく。

その朱を床に崩れて女は見ていた。
女の腹からは鮮血の赤。
茶褐色のような赤が滴り落ちる。
息も絶えそうに瞳もうつろに女は見ていた。
たったひとり、朱にのまれずに駆けていった少女の姿を。
女は小さく少女の名前を呼ぶ。
「キッド」
返事は返らないけれど、想いは確かにそこに寄り添っている。

やっぱり似てる。
あのコに...。
同じように金の髪を持った少女。
その意志も似ているようで強く存在している。
あのコが死んでから私は私じゃなくて。
ずっとふさぎ込んでいた。
キッドと出逢ったのはそんな時だった。
あのコは私のずっと好きだった幼なじみと結婚した。
結婚式の帰り道、導かれるようにあの場所に捨てられていたキッド。
白の布で包まれて、その小さな手にぎゅっとなにかを握りしめて。
キッドは笑っていた。
まるで、「私が傍にいるよ」っていうように。

そう、キッドを育てたのは運命だったかも知れない。
小さな手に握りしめられていたものは、ガルディア王国の首飾り。
蒼い石を埋め込んだそれは、キッドの瞳のように澄んだ輝きを放っていた。
マール、あなたと同じね。
いつもキッドのように瞳を輝かせて、クロノと歩いていた。
私はそれをいつも後ろから付いて見守っているしかなくて。
そして、二人は結婚した。

好きだった。
クロノが好きだった。
弟のように接していたけど、それでも好きだった。
二人が結婚して、そして死んだとき、どうしたらいいかわからなかった。
救ってくれたのはキッドだった。
だから、キッドが大切だった。
無くしてはいけなかった。
研究が成功して、おおきな開発施設が出来たとき、上手くいっている思った。
幸せがきたと思った。
二人を失ってもキッドがいてくれた。
笑っていてくれた。

なのに、燃える。
キッドや子供達と過ごした家が。
有無を言わさず燃えていく。
私の実験が大変なものをつくり出した。
幸せを叶える花ー。
それを奪うためにやってきたヤマネコ。
運命ー。
フェイトが燃えろと命じる。
崩れいく意識の中で思いだけが交錯する。
「キッド、あなたは生きて...。」
キッド...。あなたは......。
髪が揺れる。
意識の中で紫の髪が揺れる。
長く、美しい髪が。
音も立てずに。
「サラ...あなたなの・・・?」
大丈夫よ。
キッドは、絶対に生きる。
だって...あなたとキッドは...。
赤い血で床が濡れる。
開発者:ルッカはそうして命を落とした。

その金色の少女は、小高い丘の上にいた。
深い蒼の瞳を涙で濡らしながら。
それでも、少女は見つめていた。
ゆらゆらと揺れる炎を...。
そして悟る。

強いものが勝つのだと。














2.悲しみの優しさ



人の気配が、静かな小高い丘の上に響く。
気配を感じて振り返ると、黒髪の少年。
紫色の瞳が、金色の少女を捕らえて離さない。
優しさの瞳の中に見えるのは、慈悲の念。
「だいじょうぶ?」
優しい、まだ声変わりも終わってない幼い声が空に響く。
薄く日焼けしたその少年は髪に赤いバンダナを巻いている。
「うん。だいじょうぶ」
少女は、黒髪の少年に涙声で言う。
「そっか...、よかった」
少年はそっと金色の少女に触れてみる。
熱を持ったようにその身体は熱い。
「ねぇ、おにいちゃん?どうしてここにいるの?」
おにいちゃん、そう呼ばれるのがなんだか照れくさくて、くすりと笑う。
そして、一息つく。
「泣かないで。君はひとりじゃないんだよ」
うん。
小さくかすれた声が天空に響く。
「おにいちゃん、いっちゃうの?」
黒髪の少年は黙ってうなずく。
「おにいちゃんまで、いっちゃうの?」
思わず、振り返る。
少女は泣き腫らした瞳で、それでも遠くを見ていた。
しっかりした眼差しで深い蒼の瞳は少年を見ている。
「また、逢おうね」
黒髪の少年はそう言って消えた。
金色の少女は誰もいない世界にそっとつぶやく。

「うん、またあおうね」

そして、少女は歩き出す。
再び、少年に逢うために。












エピローグ:母なる大地・オパーサの浜

金色の髪に海のように深い瞳が印象的だった。
君は、やっぱり先にいて、僕を待っていた。

あの日約束した通り。
あの海で。
あの浜で、僕達は出会う。

君は、前を見て歩いて、それでも僕を待っていた。
金の髪を海風にたなびかせて、君は笑う。
「よう!セルジュ」
そして、僕達の物語が始まる。

2001.02.23