もう一度、セルジュに会えるなんて思わなかった。
海に消えてしまった幼なじみ。
はじめは戸惑った。
どうしていいか、分からなかった。
でも、純粋に嬉しいって思える。
今なら...。
だって...たとえ、違う世界に生きているセルジュだとしても
『セルジュ』は、生きてるんだから。





1.想いを託して...

どうしても欲しかったわけじゃない。
虹色に輝く、大トカゲのウロコ。
ただ、自然の恵みのみしか与えられないこの場所で何か夢中になれるものが欲しかったんだと思う。

セルジュに頼んだ大トカゲのウロコ。
3枚もって、セルジュは笑顔で渡してくれた。

 「ありがとう」

素直な気持ちで、返事を返す。
青に煌めくオパーサの浜。
いろんな私達を見てきた場所。
いつでも見ていてくれた青い海。
突然、穏やかな青の中に巻き上がる白い竜巻き。
そして...セルジュがいなくなっていた。

「もう、セルジュったら!先に帰るなんてひどいじゃない」
レナは、慌ててアルニ村に向かって走っていく。
帰ったら怒ってやるんだから!との声は竜巻きの残骸にかき消された。




2.虹色が運んだ夢

青に煌めくオパーサの浜。
いろんな私達を見てきた場所。
いつでも見ていてくれた青い海。
でも、あの日。
穏やかな海は、白い飛沫をあげて。
セルジュを飲み込んだ。
そして、セルジュを返してくれなかった。

どうして?
セルジュを飲み込んでしまったの?
一番近い存在で、長い時間を過ごしてきたのに...。
夏の日。
何時間もずっと海と一緒に話をしたよね。
あの青の浜辺。
エメラルドグリーンと青の色合いがとても綺麗だった。
波打ち際に静かに寄せる白い飛沫。
海の移り変わりを見つめて。
2人だけで、いろんな話をしたよね。
将来の事、外の世界の事。
身近な話から、果てのない話まで、あきなく話した。
ずっとそばにいてくれると思ってた。
何処にもいかないって思ってた。

あれから、もう10年の月日が経とうとしてる。
私は相変わらず子供達の世話をしながら、あの海を眺めてる。
セルジュを飲み込んだ海。
でも、振り向いたらセルジュが『よぉ!』って言って、笑ってくれそうな気がして。
だから、ずっと見てる。
笑ってくれるのを待ってる。

ふと、だれかが肩を叩いた。
どーせ子供達の誰かなんだろうと、少しムッとした表情で振り返る。
「もう、ふざけないでよね!!」大声で怒鳴った先にいたのは、なんだか懐かしさを感じる男のコ。
慌てて、頭をぺこんと下げる。
「ご...ごめんなさい。子供の誰かかと思って...」
突然、その男のコの表情が変わった。
すこし、怒ったようなそんな顔。
そして、口から出た言葉。
「レナ、どうして先に帰っちゃったんだよ」

え?
何のことか分からない。
「あの...どなた様でしたっけ?」
その時、突然割り込んできたピンク色の物体。
「レナしゃん、ポシュルをおいて帰るなんてひどいでしゅる」
ポシュルが、ふてくされたような声で言葉を放つ。
でも、ポシュルの言ってることが分からなくて...。
「ポシュル?私、今日は、ずっとここにいたわよ」
レナは不思議な表情でポシュルを見た。
「何言ってるんでしゅるか?レナしゃん、オパーサの浜にいたじゃないでしゅるか。あれ?大トカゲのウロコはどうしたでしゅる?」
ポシュルは少し鼻息を荒くして、まくしたてる。
「オパーサの浜?大トカゲのウロコ?ポシュル、どうかしたの?」
ピンクの物体は大きく揺れて、声も大きくなった。
「セルジュしゃんと一緒にいたじゃないでしゅるか」
セルジュ...。
懐かしい名前に思わず耳を傾ける。
「セルジュは死んじゃったでしょ?」
たしなめるようにレナは声を荒げる。
嫌だ...。
思い出させないで。

それまで黙って聞いていた男のコが、突然大声をあげた。
「セルジュは、ぼくだ!レナ?何言ってるんだよ」
レナは、今度はまじまじと男のコを見つめる。
どことなく、セルジュに似てる。
黒の髪の毛。
赤いバンダナ。
小さい頃のセルジュを大きくしたかんじ...。
でも、セルジュは死んでる...。

「じゃぁ、セルジュ?さん?覚えてる?あの日のこと」
あのことを知っているのはセルジュだけ。
だから知ってるはずない...。
セルジュと名乗る少年はこくんとうなずいた。
「知ってる...の?」
思わず、聞き返す。
それと同時に、声がうわずってる。
信じられない気持ちと、生きていて欲しいと思う気持ちと、ごっちゃになって想いが身体を巡る。
日に焼けたその少年は、小さな声で話し始めた。
あの日に話した、2人だけの話を。

長い長いセルジュの話が終わった。
話してくれたことは全部私とセルジュしか知らないことで。
消えたセルジュが...戻ってきたことを知った。
手を広げて、飲み込んでいた言葉を吐き出す。
「セルジュ、お帰りなさい」




3.約束の...

セルジュが帰ってきたと思ってた。
また、前のように2人で話せるって、信じてた。
でも、いろいろ知ってくうちに、セルジュは、同じ時を生きるもう一つの世界に住んでるって知った。
その世界には、もちろんもうひとりの私もいて...。
セルジュがそこに帰らなきゃいけないって知った。
だから、もう離れなくっちゃ...。

「レナ、これ...」
そう言って、セルジュがおずおずと差し出した手に握られていたのは。
虹色をした大トカゲのウロコ。
3枚もって、セルジュは笑顔で渡してくれた。
「レナと約束してたから...」
星色の袋に反応して、竜巻きが起こる。
きっと、もうひとりのレナに渡せって言われたくちね。
レナは、笑いながら、でも受け取る。
 「ありがとう」
もうひとりのレナによろしくね!と叫んだ声は、竜巻きの勢いで天にのまれて消えた。
「ばいばい、幼なじみのセルジュ...」
レナは、自分の家に向かって走る。浜辺を振り返ることなく、こぼれ落ちる涙にも構わずに。






2001.02.22