意識の淵〜黒き風に揺られて〜





「イシト、今日からお前が『黒き風』の隊長だ」

ずっと憧れていた、パレポリの黒き風...。
選ばれたことが嬉しくて、その日の夜、寝られなかったことを覚えている。



だから、どんな苦しい調査だって耐えられる。
どんな非常識な命令だって...。

耐えられる?

耐えられない!!
いま、パレポリがやってることは意識に反してる。
このままじゃいけない。
このままじゃ・・・。

蛇骨大佐たちがいなくなったこと。
それはたしかに、『凍てついた炎』と関係してるはずだ...。
でも、『凍てついた炎』ってほんとうにあるのか?
存在してるのか?
伝説のように、語られる『凍てついた炎』
見た者が、いないのはどうしてだ...?
ほんとうに、存在してるのか...?

時間をあやつり、触れるものの望みを叶える石...。
ほんとうに、存在してるなら、叶えてくれ。
私の望みを!!

『パレポリを...元の...憧れていたパレポリに戻してくれ!!』

意識が強かったのか...。
思いが強かったのか...分からないけど...。
紡いだ途端に、弾けとんだ意識。
彼方に連れ去られて、強い光にあおられて...。
次に見えたのは...100cmほどの赤い...紅い炎...。

「凍てついた...炎...?」
何故だか、すぐにピンと来てしまった。
分かってしまった。
圧倒的な威圧感。
プレッシャー。
身にかかる、大きな...大きな、えも言われぬ重み...。








        おまえか...
    わたしに、語りかけてきたのは...
     意思の強い瞳をしているな...
      だが、おまえではない...
       わたしが、探している
         調停者は...









頭の中に、降り注ぐように語りかけてきた。
『炎』の意識。
すがりつきたい。
願いを叶えて欲しい。
でないと、私は...。
イシトは、瞳をまっすぐ向けた。
炎と、向き合うような形となる。

「私の願いを叶えてくれ...」






       おまえでは、ダメだ...
        おまえでは...ない
          調停者は...
       調停者は...傷つくことを
         恐れない者...だ
         調停者...以外は
         必要...ない...










言葉と同時に、イシトの意識が弾けとぶ。
ぐるぐると廻るような、そんなカンジで。
意識がはっきりしない。
焦点さえも、定まらない。

流れこんでくる幾千もの思い...。
身がよじれそうなほど、伝わってくる。
身体がきりきりと、痛い...。

大きな光に再び追いやられて...。
次に気づいたのは、ベットの上だった。
赤紫の髪の女が、ゆっくりと覗いた。

『あぁ、瞳が覚めた?」
柔らかい、笑み...。
『あなた、倒れてたのよ』
紡がれてゆく言葉。
心地よく感じる。
小さな金色の髪の女の子が、トコトコとやって来て積み木を、イシトの身体の上に置いた。
赤紫の女が、金色の少女に注意を促す。
『キッド...止めなさい』
それでも、少女は、分からずに『きゃっ♪きゃっ♪』と騒いでいる。

そうだ...私はこうゆう人たちの笑顔が見たくて...。
パレポリに入ったんだ...。
イシトは、ベットから軽やかにおりると、赤紫の髪の女にお礼を言う。
「あの...休ませていただいてありがとうございました。」
赤紫の女は、にっこりと微笑んだ。
「いいえ。身体には気をつけてね」
そして、イシトはその家をあとにし、再び前を向いて歩き始めた。
繋がる途に...向かって...。





2002.07.10