マジカルドリーマーズ





「蒼と碧の夢が紡ぐ 想いを紡ぐ
響く音を言葉に変え 祈りを捧げる
蒼と黒の空が混じる 響き渡る
その声と 夢を追って...雲を抜ける
星が散る闇の間に 蒼は命を溜め 光を落とす
突き上げた思いを その光に捧げて 祈りを紡ぐ」

音が響く。
何度も声を枯らして歌う。
海に届く歌。
海岸ぞいを走り抜ける海の鎮魂歌。
海は、ざわざわと音を立てて響きあう。
嬉しがっているのか、物珍しがっているのか、僕には分からない。
ただ、海がかなしそうに見えて...。
ほっておけなくて、エレキギターを取り出した。
奏でたのは、悲しみの音。
怒りがこもったその歌を、海は弾き飛ばした。
まるで、さっきのお客さんのように...。

『売れないんだよ、お前のそのダサイ歌じゃ!!』
売れたきゃ、コピーしまくるんだな。

さんざんけなされた大好きな歌。
小さい頃、自然に奏でていた音。
その歌を海までもが批判する。

やっぱり、僕は向いてないのか?

ギターの音が止まる。
海は暴走したまま、うねっている。
赤と黒の2色の髪が、輝きを失う。
こんなもの...もう必要無い!!
手に持っていた、ギターを海に投げ込む。
「待ちなさい!」
女の人の声...。
びくっと、投げ込もうとしたギターを手に戻す。
「あなた、さっき歌ってたコね?」
女は、小さな女の子を連れていた。
女のさらさらの紫の髪が、海風に流れる。
金髪の女の子の手を繋いで、女はほほえんだ。
「あなたの歌、とても心に響いたわ...って伝えに来たの。でも、さっきここで歌ってたのは、魂の抜けた歌だわ」
どうしてもっと優しく、ありのままの心で歌わないの?
女は、せつなそうな顔で聞いて来た。
「海は正直よ。大地と同じ、嬉しければ静かな波を運んでくれる」
怒りと悲しみは、あなたを...海を傷つけるだけだわ。
「さぁ、歌って!!さっきのように素直な心で」
女が示すままにギターを弾きはじめる。
さっきと同じ歌。
なのに、海は静かなままで波を運んでくる。
よせては返す、波。

女は呟き、言葉を風に残す。
「海は分かったのね...あなたが優しい素直なコだって」
人の心だけじゃ、真実は量り知れないわ...
でも、海はいつも答えてくれる。
あなたの心に対して答えを出してくれる。
「がんばりなさい。ラジカルはすぐそこにある」
女はそう言って消えた。

『ラジカル...』
革命...。
この歌をもっと多くの海に聞かせたい。
「よし、マジカルドリーマーズの結成だ!!」
少年は、声が枯れるほど、歌を海に捧げる。
海は静かなまま、波間を漂っている。

「なぁ、スラッシュ、ひとつ聞きたいことがあるんだ」
お前の...そのマジカルドリーマーズって名前、どうしてつけたんだ?
スラッシュは、金髪の少女にていねいに説明する。
自分を救ってくれた女の人がいたこと。
その人が『ラジカル』という言葉を残したこと。
「だから、僕はその人にお礼が言いたい」
もう一度あって、歌を聞かせたい。
そう言ってスラッシュは笑った。

「そっか...」
金髪の少女は、うなづいて言葉を紡ぐ。
「こんど、一緒にあいに行こう、そのひとに」
スラッシュはその言葉に微笑んで答える。
「あぁ、もちろん!!」






2002.08.27