いつかは帰る場所





「探してるんだよ。あいつは」

聞き取れないほどの囁きが、唇からこぼれる。

「いつかは帰らなくちゃいけない」




カエラナクチャイケナイ。



デモ、ドコヘ...。



ボクヲ...ウケイレテクレルノハーーーーーーー。



ダレ...?


黒い陰の間から金色の瞳が光る。

頑張って皆と同じになりたかった。

僕は、君と同じだよ。

だから...。

ダカラ...。

ボクヲウケイレテ...。

いつも届かなかった。

どんなにお願いしても、僕を見ると皆、恐い顔になる。

どうして...?

僕は同じだよ。

君たちと同じだよ。

「見つけたんだよ。あいつは」

はじめてなんじゃないのか?との声は、風に混じって消える。

静かな時。

風も騒がない、静かな...。

静かな瞬間。

空間。

騒がない、森は歌う。

風に乗せて、思いを紡ぐ。


紡がれた思いを風で受けて、背の小さな魔法使いは立っている。

その前には、鮮やかに彩られたお墓。

悲しげな思いを見せないほどに、でも。

同じ、魔道士たちの姿が見え隠れする。

思いを紡いで...。

行くことはできるのだろうか。

歩めるのだろうか。




「君は、『生』と『死』を理解してるみたいだね」

隣にいた同胞が話し掛ける。

その言葉が辛いほどに。

それでも、知りたくて。

同胞は言葉を繋げる。

「『死ぬ』は止まることじゃない。失うことさ」

そうなんだろ?とその声は風に乗る。

言葉にならなくて。

答えを、首の振り方で示す。

縦にふられた首。

その反応を見て、同胞はひとつ息を吐く。

「1年だよ。1年で『死」が来る」

そして、言葉を紡ぐ。




あるとき。

分かってしまったんだ。

1年で『死』が来ることを...。

還りはしない。

そして、その『死』が恐いことだって分かってしまった。

皆は知らないよ。

1年で、『命』が消えることー。

不思議かい?

そうだろうね。

でも、君には分かってるんじゃないのかい?

楽しいんだ。

誰の影響も受けずに、仲間たちとこうやって一緒にいられて。

一緒に、過ごせて。

だから、離れない。

離れたくないんだ。

死が来ることを分かっても...。





『でも、君は...』



彼らと一緒に旅をするんだ。

そして、たくさんのモノを見て、僕らに教えてくれ。



小さな背中は、大きな温かい手に押された。

瞳に、すこし霧がかかった。



2001.02.22