『思い出はこのセイブ・ザ・クィーンとともに! さらば、アレクサンドリア!』
剣の示す道
茶色の長い髪でいつも戦場を駆けていた。
アレクサンドリアにその人ありと言われた女将軍『ベアトリクス』
アレクサンドリアを守ってきた、私の憧れだったベアトリクス将軍が、何よりも大切にしていた愛剣セイブ・ザ・クィーンを置く...。
「お返しします」
その剣で、ガーネット姫を守ってきた、ベアトリクス将軍が剣を置く。
その瞬間を見た。
なんだか、誇らしげな表情で、青い剣をガーネット姫の部屋に置いて、ベアトリクス将軍は言葉数も少なく、ガーネット姫の寝室を後にする。
そして、いつものように右手を胸元の前で水平にする。
軍隊のように乱れのない、ベアトリクス将軍の敬礼。
『思い出はこのセイブ・ザ・クィーンとともに。さらば、アレクサンドリア!』
すべてのポーズが決まっているのに、表情も晴れやかに見えるのに。
なんだか、心の中にもやもやが残っているように見て取れた。
「ベアトリクス様」
駆け寄っていくと、ベアトリクス将軍は見たこともないような笑顔をみせた。
「レン、今度は貴女がガーネット様を守るのです」
ベアトリクス将軍の鞘にはもう剣がおさめられていない。
「ベアトリクス様、考え直してください」
レンは慌てて、ガーネット姫の寝室にとってかえす。
テーブルの上に置かれてあった青い細みの剣。
いつもは、ベアトリクス将軍の鞘で輝いて見えるのにいまは、輝きがない練習用の剣と変わらなくみえる。
「これは、ベアトリクス様が持ってなくてはならないものじゃないですか」
レンは、セイブ・ザ・クィーンをベアトリクス将軍に手渡す。
「これは、ガーネット様にお返ししたのです」
ベアトリクス将軍はそう言って受けとろうとしない。
「ベアトリクス様、ベアトリクス隊はどうするのですか?私達は?ガーネット様のことは?」
関係ないなんておっしゃらないですよね?と、不安そうな顔でレンはベアトリクス将軍を覗き込む。
「ベアトリクス隊は...レン、貴女がかわりに。姫様のことは頼みました」
もうだめ...。
私じゃ止められない。
レンがベアトリクス将軍のことを諦めかけたその時。
「ベアトリクス、どう言うことか説明して頂けますか」
この声は...。
「「ガーネット様!!」」
ベアトリクス将軍とレンの声が重なる。
歩いて来たのは、白いドレスに白銀の装飾具を身につけたガーネット様。
首からは、アレクサンドリアの王位継承権の証である『銀のペンダント』を下げて、その表情に疲れの色を見せて向かって来る。
ベアトリクス将軍は声を発すると同時に、乱れのない敬礼をした。
「ガーネット様...。私はアレクサンドリアを去るべきだと思ったのです」
その言葉を聞いたガーネット様の表情は暗く厳しい。
「もう...アレクサンドリアを守るのは嫌ですか?私を守るのも嫌ですか?」
「ち...違います!ガーネット様、それは違います。私は、罪をおかしました...だから、アレクサンドリアにいてはならないと思うのです。」
ふと、ガーネット姫が笑みをこぼす。
「ベアトリクス...貴女はあの時、私を助けてくださいました。お願いです。アレクサンドリアに残って、未熟な私を支えてアレクサンドリアを守っていってください」
その言葉が、ベアトリクス将軍を救ったんだと思う。
「御意!」
ベアトリクス将軍が、乱れのない敬礼をしてレンを振り返る。
「レン、私のセイブ・ザ・クィーンを」
レンは、笑顔でセイブ・ザ・クィーンを渡す。
「レン、場内の見回りを。ガーネット様、お体が冷えますゆえ、お部屋にお戻り下さいませ」
「はい。ベアトリクス様」
青の剣は再び、ベアトリクス将軍の鞘におさまった。
2001.12.20