「うぇ...うえぇぇん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
子供特有の激しい泣き声が響いて、床でごろごろ寝転んでいた猫のミュウがとことこと駆け出していった。
向かうは、2歳をつい先月迎えたばかりの娘、桃のところ。
桃は、玄関前のフローリングのところで、元気一杯に泣いている。
察するに、鼻を伝って出た鼻水の冷たさを感じとってしまったからだろう。
それに重なるようにミュウも、ミューミューと鳴き声をあげている。
それが、早く来てと言うミュウの知らせだと悟って、は白いふわりとしたレースのエプロンで手を拭きながらいそいそと玄関に向かった。
「桃たん、どーしたんでしゅか?」
優しいママの問いかけにも、桃は泣きわめいて更に鼻をぐちゅぐちゅにする。
は取りあえず抱き上げて泣きやませようと手をのばした。
そのときすっと真横から細い腕が伸びて桃をだきあげた。
瞬間で、泣きわめいていた桃のカオに明るさがもどり、涙がとまった。
桃がぶんぶんと手をふり、笑いかけたその人は、の旦那さんでいま話題の新進気鋭のジュエリーデザイナー、葉月 珪。
珪は、桃を持ち上げると昔と変わらない無表情っぷりで聞いた。
「...桃ちゃん。お鼻がたれて可愛さ度が下がってますよ。お父さんがとってあげましょうね」
あのクール一辺倒としかあらわしようがなかった珪が、いくら愛娘が生まれたからとはいえその豹変ぶりにはいまだ慣れずにいた。
驚きで止まったままのをよそに珪は、ティッシュを取り出し、桃の鼻のまわりを拭いてあげる。
「はい、綺麗になりまちたね」
笑みを漏らした珪に、桃もきゃっきゃと声をあげ嬉しそうに笑った。
葉月家の毎日はそうして、桃一色で過ぎていくのであった。
|