欲しいものはそう、なかった。

ずっと、いままでは。












王子様とお姫様。











跡部の嫌いな恋愛単語の中に『ひとめ惚れ』とかいう、女のコの憧れる言葉が在る。
絶対起こり得るはずのないことだと、跡部はテレビをみながら、時には告白してきたその女の前でせせら笑う。
跡部にとって所詮恋愛とはそんなもの。

むしろ、跡部は恋愛など成立しないと思っていた。

それは、跡部にとって彼女たち『女』が。

ただの性欲を満たすためだけの存在に過ぎなかったからだった。



その日も跡部は告白してきた女を部室で喰い、満足した面持ちで家路につこうと校門に向かう一本道をレギュラーたちと歩いていたところだった。

「それにしても、あの女。バカみたいにハイハイ言うこと聞いてましたよね〜〜〜〜」
「そや、あんなギャルみたいな化粧しとるさかい、あっちのほうも経験豊富なんや想像してたのに、ちっとも楽しませてくれへん。盛り上がりにかけたわ」
「そんなこと言って、侑士意外と楽しんでたくせに」
「あほか、あんな胸小さい女、はじめっからようないわ」

鳳のバカにしたような笑いに忍足も同意の意見をこぼす。
隣では、向日が忍足に突っかかって楽しんでいる。
どうやら、彼らも跡部の女をいただいたらしい。

その横では跡部がいつもの通り笑い、その場に響くようにいった。

「女ってのはバカな生き物だよな」


そして、跡部がレギュラーたちの肯定の言葉のために口を閉じた瞬間、耳に激しく自分を侮辱する言葉が届いた。

「ちょ...待って、ユカ。あんた何言ってるか分かってんの?あんなクソ男に夢見てどうすんのよ!アイツは、ただ顔がいいだけの、サイテー男だってユカも痛いくらい分かってんでしょ。何十人泣いたのみたよ?大切にされるわけないじゃん、夢見んのやめなよ」

声を大にして、少女は跡部を指で差しながら友達を必死で止めている。
少女の視線は友達、ユカをみているため、跡部がその行為に気付いていることももちろん見ていることさえもしらない。
でなければ、少女はそんな恐ろしいことをしなかっただろうに。

もちろん、激しく侮辱されて黙っていられるほど優しい心の持ち主でもない跡部は30メートルしか離れていない、その地点にいる少女に向かってつかつかと歩んでいった。
それを、レギュラーたちはぽかんと眺めている。

跡部はそのままくわっと少女の肩をつかみ、こちら側に振り返らせようとした。
瞬間、肩ごしに跡部を認識したユカの顔が強ばり、次に頬が染まった。

跡部はそんなユカに構わず、振り返った自分を侮辱していた少女を見据えた。


もちろん、返り打ちにするためである。が、跡部は少女をみた瞬間一歩引いてしまった。

跡部だと認識したはずの少女の瞳に、変わらず非難の色が浮かんでいたこともあるが、それ以上に少女は先ほどの口調が信じられないくらい可憐な容姿をしていた。

跡部のなかに『冗談だろ...』という言葉が駆け巡る。
と、同時に仕打ちを受けているのに高鳴る鼓動。

そんな衝撃に打たれている跡部をよそに、少女はただ跡部を睨み据え低い声で問った。

「...なにか用なんですか」

まるで先祖からの仇をみるような瞳の少女に対し、跡部が答えられたのはたったひとことだけ。

「わりぃ...なんでもねぇ...」

そう言うと、掴んでいた肩を離し、足早にレギュラーたちのところへ帰っていった。

もちろん、額に青筋を立てながら歩いていった跡部をレギュラーたちは不思議そうな表情で出迎えた。
女とて、自分の敵だと認識すると壊滅させるまで手を緩めない跡部が何もしないで帰ってきたのだ。
各々、不思議そうな表情でみつめあうも答えが得られずただ跡部を見守った。

跡部はというと、自分のなかの感覚を理解出来ずにただ焦っていた。
なぜだかワカラナイが、あの少女の視線を思い出せば出すほど心臓が早く打ち付ける。

ともかく、跡部は気付かなくともそれが一般的な『ひとめ惚れ』だということは間違えようのない真実であった。

















追記。


初跡部。
なんというか、微妙。
そして続くのですよ、例によって。

2002.11.06