蔑まれてきたアイツの言葉が分からなかった。
誰もお荷物と思って理解しようとするヤツもいなかった。
けど、そのときのアイツの言葉はなにかひっかかるものがあったから。





煙草もピアスも髪の色も三年前は全く違っていたのに。



『どっちも綺麗じゃない』












誰のために君は生きる。



















放課後、先生に呼ばれた足で教室に戻ったら机につっぷして眠っているがいた。
氷帝の生徒らしくない着崩された制服が目に入る。
短く折り曲げたスカートからのびる足には白のルーズソックスが装着され、染め上げた金色の髪に午後の光が差し込んで天使の輪を作り出していた。





呼んだ名前は、ほとんど独り言のつぶやきの範囲だったのに。
茶色に溶け込んだ金色はさらりと流れて主の表情を露にした。

うっすらと開かれた瞳が俺に向かって集中してくる。


「跡部・・・?」


呼ばれるなんて思っていなかった名前に違和感を隠し切れず、返す。



「俺の名前知ってるんだな」



その間にもけだるそうに髪の毛を掻き揚げた手が、浮遊し鞄を漁る。
長い爪に塗られた白のマニキュアが同じ白に緑のデザインが施された箱を掴んで、その中から一本煙草を取り出した。
左手の青いライターがボッと赤い光を放ち、それを燃やす。


「知ってるよ、アンタ有名人じゃん」


しかも同じクラスだし。と、白い煙りを吐いた後にぼそっと吐き出された言葉に、お前だってそうだろ。と呟く。
一瞬瞳の彼方で、の視線が揺らいだような気がした。


「あんたとは正反対の意味で有名かもね、優等生って大変でしょ?ダルくなんない?」


矢継ぎ早に放たれた皮肉の言葉に、視線をそらすことなく答える。

「別に」

それが俺の仕事だと思ってるし、認識してるし。と返すと、は失笑した。


「...アンタは綺麗なんだ?」


理解できなかった言葉の片鱗がはじき出される。
社会の授業で、教師が児童買春を話題にしたときのが答えたあの言葉と同じ単語。



『綺麗』



あのときの言葉とついさっきの言葉が頭を駆け巡っていく。


「...アンタは綺麗なんだ?」
『どっちも綺麗じゃない』



「...どういう意味だよ。お前みたいに煙草吸ってねぇからか?それとも優等生やってるからか?」



は眉をちょっと細めると、かったるそうに呟いた。

「別に、大した意味なんてないよ」

そういって視線を外の緑に向けたは、構って欲しくないと言いたげにそっぽを向いた。

「意味ないはずないだろ...言えよ。俺が『綺麗』で援交やってるヤツらとそれ買うヤツらが『綺麗じゃない』理由はなんだ?」


またの瞳が大きく見開かれて俺を見据えた。





「...憶えてたの?」





俺がこくりとうなづくとは静かにはなしはじめた。
さきほどまで手にされていた煙草はいつのまにか吸い終えられて煙りを立ち上らせるだけとなっている。

「...跡部が綺麗なのは汚いことをまだ知らないから。援交するヤツらは」

貰うヤツらも、買うヤツらも、全部全部汚れきってるから。アンタは知らないだろうけど、今援交の主流は小学生だよ?あたしらより上は遊んでて汚れてるんだってさ。と、また失笑する。







「どうせやってることは変わりないのにね、食いものにするのもされるのも」
















セックスなんて誰が造り上げたのかなぁ、バカみたい。














そういって鞄を持ち立ち上がったをみて、俺はやっとそこで気付いた。


がぶっきらぼうな態度をとるのは、世界の悲観を身体で示してるからだと。





すれ違い様に、細っこい身体を引き寄せ抱き締めた。
首筋からは煙草の匂いがして、心がきゅと締め付けられる。
の心臓の音が体中に響きそうなほどだった。

「やめて、跡部。あんたまであたしをそういう対象で...」

「違ぇよ」

見てるの。と言う言葉を遮って否定を伝える。







「お前は、俺よりも援助交際のヤツらよりも誰よりも綺麗だよ」











シャツに水滴の雨がこぼれた。






































追記。



テーマは良く分からない感じになっちゃってますが『援助交際』だったりします。
ちなみにこれを書くきっかけになったのは、AERAを読んでましてですねある記述がとってもひっかかったんですよ。
大人が悪い、大人が悪いって言われてるけど本当にそうなのかなって。
lenは実はそうは思わないんです。
もちろん買春する大人って悪いと思いますよ。そしてそれを商売にしてる人たちも。
でもね、子供達だってそんなに馬鹿じゃないと思う。
援交あがりのおねいさんに声かけられたからってついていくの?
どんなに無理やりセックスさせられたからって完全に被害者ヅラは出来ないよね。
事務所掃除が一万円なんてありえないことくらいわかんないのかな...。
なんだかこんなことで騒いでる日本ってすごく嘆かわしい気がする、
世界の同じ年くらいの子供は実の親とかに売られて身体売らされてるのに、なんなの?
しかも彼女たちの稼ぎはジュース一本分にも満たないんだよ。
しかも小中学生だけが綺麗みたいな表現、すごくムッとする。
いまのロリコン男の好きな小中学生だって、いづれか年月がたてば高校生にもなるし大学生にもなる。
結局綺麗、汚いの差なんてない、ヤってることは同じなんだから。
ひとに欲求がある限り、この問題はなくなんないんだろうけど、それでも願って止みません。



image song 浜崎あゆみ『Dolls/Over』







up date:2003.07.28