僕たちは、初戦を勝利で飾ったあと、北天騎士団の指示通り、イグーロス城に向かった。
ガリオンヌを抜けると、そこには一転して広大な平原が広がる。
通称、マンダリア平原と呼ばれる草原である。
なだらかな草木の間からはり出した白い石灰岩が牙のように突き出ている、その様子から地元の民衆は愛称のように獣々原と呼び、日頃から通行に使われ生活の拠点でもあった。
獣々原を抜け、イグーロスへの歩を進めた瞬間、遠くからかすかに救いを求めるうめき声が聞こえてきた。
声の方角をみると、大勢の人々が何かを囲んでいる。
姿、格好からどうやら先ほどの盗賊の残党のようだ。
その中心には、男が見えかくれしている。
僕らはかたずを飲んで、それを少し見守ることにした。
「こいつ、まだ息があるようだぜ。どうする?」
その盗賊の言葉に僕らは、はっとして手に持っていた剣を握りしめた。
「わかりきった質問をするな。侯爵さえ手に入ればいいんだ」
複数の盗賊の声が広大な平原に響く。
「そうだったな。小僧、恨むんならてめぇの運命を恨むんだぜ」
そのとき、僕らのうちのひとりの草木を踏み付けた音が静まり返った平原に響いた。
「...ん?しまった、北天騎士団のやつらだっ!」
エイシが中央にいる男に気付いてぼそりと漏らす。
「骸旅団の連中か?誰か襲われているようだな...?」
僕らは彼を助けることにした。
それが父のいう『正義』に相違ないと思ったからだ。
「北天騎士団の名誉を傷付けてはならない!彼を助けるのが先決だ!」
僕の声に、中央でうずくまっていた男は立ち上がるとこっちをみつめた。
「...援軍か?たたすかった」
僕らは、やつらの迫りくる攻撃を交わしながらも責め、なんとか勝利を納めた。
その後、男を助け、声をかけた。
「大丈夫か?」
エイシがいたわるように、男に触れた。
僕らもかなりの手傷を負っていた。
「なんとかな...。しかし、侯爵様が...」
男の口から零れ出たその言葉に、僕は反応せざるを得なかった。
先ほどまで話題に昇っていた人物のことではないのか。
真相を確かめるべく、名も知らぬ男に尋ねた。
「侯爵?ランベリーの領主、ミカミ侯のことか?」
男は振り返ると一言だけ答えた。
「あぁ、そうだ。おまえらは?」
助けたとはいえ、まだすこしうたぐっているのか彼は僕らを観察するようにじっとみつめてきた。
そこで僕とエイシは、彼に向かって身分を明かした。
「僕らはガリオンヌ士官アカデミーの士官候補生だ。君の力になれると思うよ。詳しく話を聞かせてくれ」
僕の身分を聞いて、安心したのか彼は自らの名をユンギュンと名乗った。
ランベリーの近衛騎士団の騎士らしい。
そのユンギュンの言葉に、エイシが疑問を唱えた。
「騎士...?」
僕らと同じ年齢にみえるからであろう、その問いかけに彼はすこし表情をむっとさせて語調を荒げた。
「...いや、騎士見習いさ。なんだよ、おまえらだって、一緒じゃねぇか」
彼の言葉に僕らも名を名乗る。
「僕はショウ・ベオルブ。こっちは親友のエイシだ」
エイシは僕の言葉の後に礼儀正しく、頭を下げた。
すると、ユンギュンははっとして僕に詰め寄ってきた。
「ベオルブだって...あの北天騎士団のベオルブ家か?そいつはすごい!なんてラッキーなんだ、オレは」
僕は意味が分からずにエイシをみた。
エイシも狐につままれたような表情を浮かべている。
「お願いだ、侯爵様を助けるため、北天騎士団の力を貸してくれ!」
エイシは熱くなっているユンギュンに問いただす。
「どういうことだ?」
「侯爵様はまだ生きている!やつらに誘拐されたんだ!早く手を打たないと侯爵様がやつらに殺されちまう!そうなったら、オレはいったい.....」
ユンギュンは再び僕の手を強く握ってきた。
「だから頼む!手を貸してくれ!お願いだ!!」
エイシは冷静になるようユンギュンに促し、言った。
「まだ、死ぬと決まったわけじゃないだろ?骸旅団だって誘拐したからには何か狙いがあるはずだ。何かの要求があったかもな」
その言葉に僕も賛同し、言葉を繋いだ。
「それに僕らだけじゃどうしようもないよ。だいたいミカミ侯が誘拐されたんだ。イグーロスじゃ今頃大騒ぎだよ、きっと」
エイシは更に言葉を繋ぎ、提案した。
「まずはイグーロスへ行き、報告するのが先決だ」
ユンギュンもそれに従い、イグーロスへ向かうことになった。
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