僕らは、兄タキの指示のもと、任せられた警護場所、イグーロス城の内堀にたっていた。
水はするりと流れ、穏やかな時が城全体を包んでいた。
そんな中でも僕らは姿勢を正してたっていた、もちろん、腰には剣をぶらさげて、である。
しばらくたったあと、兄にくってかかっていたユンギュンが、うつむきながら自分のことを話し出した。
それは、長い長い話だった。
ユンギュンの家は代々貴族に仕える騎士の家柄であったこと、五十年戦争の時に捕まったユンギュンの祖父が、自分だけ逃げようと仲間を売ったこと。
そして、僕らのような騎士見習いにさされて死んだこと、それを戦争後に触れ回られて、家が没落したこと。
ユンギュンは悠久の時のような時間をくれるその水の流れをみながら、かみしめるように呟いた。
「身分か...。たしかにオレ一人じゃタキ卿には会えんよなぁ...」
それは、ぼくらにとって一番厚い壁となってしまったんだ。
僕らが気付かないところで、それの差は大きく、そして歴然としていたんだ。
その話が終わるやいなや、誰かが僕らを呼ぶ声が聞こえてきた。
「兄さ〜〜〜〜〜ん!」
エイシが、その声の方向を見て微かな笑みをうかべ、声を返した。
「ミユキ!」
そこには次兄のトシキ、妹のツバサ、そしてエイシの妹のミユキが揃っていた。
僕らは久しぶりの再会を心から喜んだ。
「ショウ兄さん。戻っておいでだったのね」
笑顔のツバサ、僕らはもう半年以上あっていなかった。
「お久しぶりです、兄さん」
僕は兄トシキに声をかけた、その姿や立ち振るまいは全然依然の兄さんと変わっていない。
以前あったときより鍛えあげられた身体、剣をおさめる鞘からはみだした銀の煌めき、そこには戦闘という文字がいつでもまとわりついていた。
「聞いたぞ、ガリオンヌでは盗賊どもを蹴散らしたそうだな。それでこそ、ベオルブ家の一員だ。亡き父上もも喜んでおいでだろう」
「...ありがとうございます」
兄は、僕の言葉の歯切れの悪さに気付き、ほんのすこし笑っていった。
「ふふっ、あいかわらずだな。こんな言葉では素直に喜べんか。エイシ、逞しくなったな。お前の活躍の話も聞いたぞ。ミユキが嬉しそうだった。なぁ?」
兄は、隣にたたずんでいたエイシの妹のミユキに話をふった。
まだ一言も会話を交わしていない、ふたりを兄は気づかったのだ。
「エイシ兄さん、お元気そうでなによりです」
僕とツバサとおなじでエイシとミユキも当然、半年以上あっていない、僕らが両暮らしを余儀無くされている為だ。
エイシはそんなミユキに目を細めて言葉を返した。
「ミユキこそ元気そうで良かった。学校には慣れたか?」
ミユキはエイシの言葉に強くうなづいて、笑った。
「えぇ、みなさんとてもよくしてくださるので...」
水のようななごやかなムードを一点、緊迫したものに変えたのは兄トシキだった。
兄さんは、僕らも参加していた『掃討作戦』に向かうと言う。
長兄のタキから座を引き継いで北天騎士団のトップになったいまでも次兄トシキは必ず戦場に赴いていた。
もともと、会議や話し合いより実戦の方が得意な兄である、人を上手く動かす長兄のタキに比べその実戦経験は2倍も三倍も上であった。
「ご武運を」
僕は、戦場に赴く兄や父にかけていた言葉を、今回もかけた。
兄は軽く手をあげて数歩歩いた、そこで背を向けたまま立ち止った。
「骸旅団から身代金の要求があった。...どうも腑に落ちないところがある。骸旅団は、反貴族をかかげるアナーキストだが、貴族やそれに仕えるものたち以外には手を出さない主義だと言う。そんなやつらが金目当てで誘拐したとは考えにくいな」
兄は更に言葉を続ける、内堀には風が強く吹き荒れ兄のマントを揺らした。
「情報収集のため放った草(スパイのこと)の一人が戻ってこない。大事に巻き込まれたと考えられるが、草ごときに捜索隊を出す必要はないと重臣の方々はおっしゃるのだ」
僕とエイシとユンギュンは顔をみあわせた。
「どこで消息をたったんですか?」
「ガリオンヌの東、ドータという名の貿易都市だ...。...城の警護なんぞ退屈だぞ。そう思わんか?」
兄は、それだけ言うと足早にたちさった。
兄なりの、僕らをけしかける言葉だったんだろう、僕らはその兄の言葉にドータ行きを決めた。
エイシは心配そうなミユキと抱擁を交わし、そして言い聞かせると、ユンギュンをうながした。
僕もそれに続くかたちで歩き出す、とツバサのつぶやきが聞こえてきた。
「ミユキは、あぁ言ったけどほんとうは...」
僕はその言葉に振り返り、ツバサをみつめた。
「ミユキがどうかしたのか?」
「身分が違うって学校でいじめられることが多いのよ。...ごめんなさい、兄さん。余計な心配させちゃって。ミユキのことは大丈夫よ。私がついてるから安心して」
「心配なんてしてないさ。でも、あんまり無理するなよ」
僕の言葉に、ツバサはほんのすこし笑った。
「兄さんこそ、周りの期待に答えようとなんでも背負い込み過ぎよ。兄さんは兄さんなんだからベオルブの名に縛られることはないわ」
僕はツバサの言葉に笑って返した。
「まるで母さんみたいな言い方だな。ははははは」
僕はひとしきり笑うと、もう行くよと声をかけ、ツバサに背を向けた。
イグーロス城の内堀には早春の強い風が吹き荒れ、ツバサのスカートを揺らした。
ツバサは不安そうにショウの歩いた方向をみてつぶやいた。
「ショウ兄さん...」
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