静かな騎士の声が寂しげに廃屋を突き抜けていく。
「オレたちは盗賊なんかじゃない」
その言葉に怒り狂うユンギョン。
いまにもつかみかかりそうな勢いをショウが横にたつことで諌めている。
「なんだとぉ!」
「...貴様たち貴族はいつもそうだ。オレたちを人間とは思っていない...。五十年戦争で...この国のために...命をかけて戦ったオレたちを...用済みになると切り捨てた...。オレたちと貴様ら貴族にどんな違いがあるというんだ?生まれ...?家柄...?身分ってなんだ...?」
いままでショウが考えもしなかったことを騎士はどんどんと言葉にしてくる。
「...侯爵誘拐は...間違いだ...。ウィ−グラフ様の計画じゃない...」
その言葉に、水を切ったような静けさが廃屋全体を覆う。
言い訳がましいその言葉なのに、まわりの静けさに押しながされるように怒り狂っていたユンギョンでさえも黙って騎士の話に耳を傾けた。
「!?」
「我々は金目当てで...要人誘拐など絶対にしない...」
その言葉は、急ぎで否定したような雰囲気なんて微塵も感じられなかった。
その騎士の真剣な眼差しにいままで傍観者に近かったショウは重たい口を開いた。
「じゃあ、誰なんだ?誰がエルムドア侯を誘拐したんだ?」
騎士はためらっているのか、硬く口を閉ざし押し黙っている。
「...」
ユンギョンは、その態度に再び激昂し、語調が荒々しくなった。
「言えッ!お前たちじゃないとしたら一体どこのどいつなんだッ!?」
「...マサトだ」
しばらくの沈黙のあと、騎士は小さな声で呟いた。
「マサト!?誰だ、そいつは?」
まるで、つかみかかりそうなくらいのユンギョンの荒々しい声に返答を返したのは、すでに壁の一部分になってしまいそうなくらい傍観を決め込んでいたエイシだった。
「マサト・タカイ...。”骸旅団”の副団長だ」
落ち着いた物腰の、適切な言葉にユンギョンの怒りは更にヒートアップし、叫んだ。
「やっぱり、お前ら骸旅団の仕業じゃないかッ!!」
騎士は再び、信念を口にした。
「ち...違う!我々骸旅団は貴様たちを倒すために戦っている!我々は平穏な世界を築くために戦っている誇り高き勇者だ...。マサトとは違う!!」
「なにが誇り高き勇者だ?このゲス野郎め...!!」
声とともに、鈍い音がしてユンギョンの足が騎士の腹にのめりこむ。
こんどは、ショウの諭す声も聞き入れず話をつづけた。
「いい加減にしないかッ!ユンギョン!!」
「で、そのマサトはどこだ?」
「す、砂ネズミの穴ぐらだ...」
暗号のように放たれた単語に、ユンギョンは顔をしかめた。
「砂ネズミィ?」
そこに、絶好のタイミングでエイシが言葉をはさむ。
「余所からきたユンギョンには分からないと思うが...砂ネズミはこのドーターの北に広がるゼクラス砂漠にのみ生息するネズミのことだ」
いまだ、なんのことかわからないユンギョンは顔をしかめて考え込む。
「!?」
そこからは、ショウとユンギョンの作戦会議だった。
「ドーターとゼクラスの間に集落なんかあったか?」
ショウが疑問を投げかければ、勤勉家なエイシが頭をフル回転させて参考になるようなことを話す。
ふたりのコミニュケーションは完璧だった。
「今はないが、以前砂漠の民の集落だった場所ならある...」
「マサトと侯爵はそこだな」
「あぁ、おそらくな」
エイシとショウは、話をつけ、顔をみあわせた。
「どういうことだ」
説明を求めるユンギョンにショウはもったいぶるように答えた。
「穴ぐらはネズミの巣ってことさ」
「!?」
その言葉の意味するところに気付いたらしいユンギュンはもう一度騎士の腹を蹴りあげて廃屋を足早に出た。
外には大きな雲がひとつかかっていた。
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