それからの授業はほとんど滞りなく行なわれた
最初の授業は、軽く先生たちから注目されて『武蔵森から来てる双子さんたちだね』と言われたり。
(氷帝の先生ってなんかみんなそろいも揃って優雅)
自己紹介させられたりされたりして、楽しかった。
隣のジローくんも瞳をこすりながら窓の外を眺めたり、小声で話しかけてきたりして緊張をほぐしてくれた。
そう突然いなくなってしまうまでは。
学校親睦交換在籍。03/ジロー捜索。
お昼をテニス部メンバーと一緒に食べて、午後の授業に向かおうと立ちあがったときにさっきまでくっついていたはずのジローくんの姿が見えないことに気付いた。
「ジローくんがいない...」
唖然として呟いただけの言葉に、その場にいた皆が口々に話しはじめる。
まるで当たり前のように気にもとめないでいいようなそぶり。
「あぁ、ちゃん気にせんでええで」
「そうだぜ、ーどうせジローのことだからどっかで寝てんだろうし」
「まったくジローは...まぁでも、いつものことだし放っといて授業の準備しちゃいなよ」
そういって立ち上がるみんな。
伊織ちゃんまでが言い切るってことは放っといていいのかな...(っていうか、皆慣れてる?)
皆がそういうなら...と、結論に達したとき、宍戸くんの声が青い空の合間に雲となって消えていった。
「、お前らのクラスつぎなんだ?」
「んー音楽じゃないっけ」
跡部くんを振り返りながらどうでもよさそうに吐かれたの言葉に何故か急にみんなが騒ぎ出す。
さっきまでの余裕さが一変して、なんだか皆が慌てはじめた。
「なぁまずいんちゃう?」
「マジーよ、マジーって」
「捜しに行って連れてくるしかないだろ、知られる前に」
「監督うるさいですからね、ジローさんかなり睨まれてますし」
疑問符ばかりに頭の中まで支配されそうなわたしの前で、それでも余裕そうな表情の跡部くんが斜め後ろにまるで従者のように控えていた樺地くんを呼んだ。
「樺地、ジローを捜して連れて来い」
あっけにとられるわたしの目の前を樺地くんがゆっくりと通り過ぎていく。
は呆れ顔でその様子を見送っている。
(え?ってば驚かないの?)
わたしは思わず樺地くんのシャツを握りしめ、彼の名を呼ぶ。
「樺地くん」
ゆっくりと息を整え、振り返った彼に告げる。
「わたし捜してくるよ」
それにすぐに反応したのは忍足くんだ。
流れるような関西弁が耳に届いてくる。
「そないなことせんでええよ、ちゃん。ジロー捜すんは樺地の仕事のひとつみたいなもんやし」
「う〜ん、でも怒られちゃまずいんだよね?樺地くんが行くよりわたしが行ったほうが、もし授業に間に合わなかったとしても言い訳しやすいし、先生もちょっと甘く見てくれると思うの」
だからわたしが行くよ。と再び伝えると、跡部くんが『確かにな』とうなづいて止まったままの樺地くんを再度呼んだ。
「あの紙、に渡してやれ」
ウス。とうなづいて樺地くんがポケットから綺麗に折りたままれた紙をわたしに渡してくれる。
それを広げてみると、ジロー昼寝ポイント。と明記された学校内の見取り図が示されていた。
何ケ所か赤いバツ印がついたところがジローくんの昼寝場所らしい。
わたしは樺地くんに微笑むと、振り返ってに言った。
「じゃぁ、わたし行ってくるね」
歩き出したわたしの背中にのひきとめる声が追いかけてくる。
「、あたしもいくよ」
でも、その声にわたしは答えずひらひらと手をふった。
跡部くんのを諌める声が聞こえてくる。
「おい、。それじゃ意味ねぇだろ?何のためにが捜しに行くと思ってんだよ。二人で迷ってましたなんて言い訳になんねぇだろ」
「そういう問題じゃないってば!ひとりでいかせるなんてできないってんの!」
「あのなぁ...他のヤツらがに手ぇ出せるはずねぇだろ...........」
屋上の扉が閉まって、跡部くんの声を途中でかき消した。
わたしはちょっと楽しくなって(ごめんね、ジローくんちょっとだけわたし探検気分)紙を覗き込みながら一番近いバツ印の場所に向かった。
「う〜ん、いないなぁ」
ひとつめは、白が基調の保健室。
(でもなんだか武蔵森に比べたら数段豪華。武蔵森もかなり綺麗なほうなんだけど)
先生も誰も具合の悪い人もいないようで、開け放たれたカーテンからみえたベットにはジローくんらしき影はなかった。
その場所をあとにして、次のポイントに向かう。
ちょっと離れた部室棟を目指し、中庭を通り抜ける。
中庭にも赤いバツがついてるけど、部室棟の方が遠いから後回し。
予鈴はさっき保健室を出るときには聞こえていたから、タイムリミットはあと4分と言うところ。
まずいなぁと、焦りはじめたところで茶色と言うか金色と言うか独特な色が緑の隙間からみえた。
ハッと閃いて、その金色のそばにちかよってみる。
覗き込むとそこには案の定、ジローくんがいた。
しかも、皆の言う通りすやすやと眠ってる。
またもあっけにとられながら、ジローくんの名前を呼んでみる。
「ジローくん、起きて」
わたしの声が聞こえたのか、ジローくんは『う〜ん』とみじろぎをすると手を動かしてわたしの身体を抱き締めた。
「きゃ...ジローくんちょっと!起きて!!」
いろんな意味で慌てふためくわたしを余所にジローくんはまだすやすやとなんだか嬉しそうな表情を浮かべて寝ている。
(わ〜、亮ごめんね!不可抗力だから!!)
どうしたら起きてくれるのか分からなかったわたしは、足元にはえていた草を千切ってジローくんの耳をくっすぐった。
くすぐったさにジローくんが頭を振ってもぞもぞしている。
意識が戻ってくる片鱗がみえた。
わたしはそれに賭けて再度名前を呼んでみる。
「ジローくん」
「ん〜、」
寝起きのぽーっとそたような虚ろな瞳でわたしの顔をみつめるジローくん。
どうやら起きてくれたみたい。
一安心でもう一度ジローくんに告げる。
「起きて、音楽の授業始まっちゃうよ」
その言葉が大きな影響を与えたのかジローくんは慌てて立ち上がると、困ったような顔をしてわたしの手を握った。
「わ〜、急がなきゃ!監督怒るとチョ−怖いんだよね。走るよ!」
そして言い切るか言い切らないうちに走り出した。
途中教室で、道具をとってから音楽室に向かう。
なんとか開始5分以内で間に合って担当の榊先生には『ちょっと具合が悪かったので』と告げた。
榊先生は『そうか』とうなづいて許してくれた。
席についた瞬間ちょっと怒り気味のと目が合った。
瞳だけで謝る。
そのとき、ジローくんが小さな声で話し掛けてきた。
「あ、そうだ!。迎え来てくれてありがとう」
笑った彼に、やっぱり憎めないなと思って笑みを返した。
△/▽
追記**
実にシンプルなジロー捜索。という題名どうりの展開。
でも、またこれも更にいじくりまわしたモノが存在します。
それもね、あとでアップしたいなぁ。
きっと何回かジローを捜しに行くと思うのですよ。ちゃんは。
なので、そのときにね。
up date2003.07.25