Sister**01











全てが整っていたはずの、窓わくが一瞬視界の隅で揺れた。
目の前では白のフリルつきワンピースの裾を握りしめたが恐る恐る跡部の様子を伺っている。
跡部は、さっきが呟いた言葉を確認するようにゆっくりと息を吐いた。

「付き合いたい男がいるとか、言ったのか」

自分の言葉なのにしっくり来ないただの文字の羅列を音にする。
頭の中は、ほぼ真っ白。
なのに、視界でははっきりとがうなづくのが確認できた。
跡部は、思わず頭を抱えこんだ。

いつか言い出すと思っていた、の恋愛相手。
それでも告白を断ってばかりだったから、まだ興味はないのだと跡部は勝手に理解して安心していた。
それに、はまだ13歳。
付き合う付き合わないなんかで、まだ認めることは出来ないし騒ぐこともない。
どんなにジローや忍足が『ずるいやん、自分旭と中一からヤっとったくせに』と罵ったとしてもそれは曲げることが出来ない。
だって、は跡部にとって唯一の妹。
だからこそ、怪しそうな男(それにはもちろん仲間であるレギュラー陣も入るのだが)には近付けずにいた。
それでも目をひく容姿、跡部には似てないと忍足が評したした下がりの瞳。
女のコらしい小さな背、甘い雰囲気が更に甘くなる魔法の笑み。
彼女の旭でさえも『景吾の妹可愛い』と言ってはばからないし実の妹のように可愛がっている。
自分より妹の恋愛にやきもきされるなんて冗談じゃないが、は跡部が大切に守ってきただけあって、まごうことなき美少女だった。

そのが跡部の顔を覗き込んで不安そうに呟く。

「お兄ちゃん...」

跡部はその声にハッとし、に無理矢理笑顔を向けた。
普段は不機嫌な跡部も溺愛する妹のまえではとことん優しくなってしまう。

。なんでそいつと付き合いたいんだ?」

跡部のもっともな質問には頬を赤く染めて俯きながらも答えを告げる。
いままでにみたことのない表情に動揺を隠せない跡部。

「...一目惚れなの...」

広がり消えた言葉に、一瞬あがった部屋の温度と跡部の熱が共有された。
勘弁してくれと言わんばかりのため息が部屋を支配する。
実際跡部の心の中は考え直して欲しいで一杯だった。
他の連中なら舌打ちのひとつでもして、『何寝ぼけたこと言ってんだよ』と毒を吐いてダメージを与えるところだが、にはそうすることもできない。
跡部はの放った言葉をゆっくりと口の中で転がした。






ひとめぼれ。






それは要するにから好きになったと言うことだと気付いて跡部は更にあぜんとした。

大切に娘を育てるような気持ちでみてきたに男が出来る。
それは跡部に彼女がいようといまいと関係がないくらい、衝撃的なことだった。

テニス部の連中がみていたら腹をかかえて笑いそうなくらいの動揺を隠し切れずに言葉がうわずる。
授業でも、部のミーティングでも試合中でもあんなになめらかに滑る口がうまく開かない。
跡部はそれをプライドと見栄で抑圧して言葉を吐き出した。

「ひ...ひとめぼれなのか...で、そいつは何処のどんなやつなんだ?」

跡部の無理矢理な態度にも気付かずにはまた頬を染めて鈴の音のように呟いた。

「武蔵森学園、三上 亮さん・・・」

その瞬間跡部の頭の中にその名前は嫌悪として強くインプットされた。


その夜。
跡部は、旭を呼んでのことを話して聞かせた。
跡部としては、他意もなくただ旭の意見が欲しかっただけなのだが(もちろんいけ好かないことも話した)旭は実の妹のようなの恋物語に共感し、勢い込んでありえないことを言い出した。

「んじゃさ!景吾!あたし調べてきたげる」

もちろんその言葉に驚いたのは跡部。

「は?旭テメ−何言ってんだよ!?」

驚きつかみかからんばかりの勢いの跡部に旭は余裕の笑みを浮かべ返した。

「だ・か・ら!景吾は心配なわけでしょ?その三上くんとかがちゃんをまかせるに値するかどうか」

問題を履き違えてると注意しようとした跡部を遮り、旭は続ける。

「まぁ、三上 亮っていったら、噂くらい聞いたことあるしー?チョ−かっこいいんだって」

みてみたいじゃん?純粋に。と付け加えて微笑んだ。
跡部はそんな旭をとめる術はないと悟り本日何度目か分からないため息をつき告げた。

「勝手にしろよ」


こうして跡部の波乱万丈な日々は幕を開けたのだった。
















△/



追記。


何書いてんだか、lenってバカだね。
これはね、あくまでもちゃん主軸なんだけど。
でも、跡部カノジョの旭ちゃんがかなりキーパーソンなんだよね。
もうこの展開最初っから決めてて。
ちゃん主軸なのに旭でばってるみたいな。
でも、あくまで題名はsister!なので、ちゃんヒロインなのですよ。



image song  globe 『seize the light』


up date:2003.08.05