翌日、早々にバックを持った旭が跡部のもとにやってきてにこやかに告げた。

「景吾、今日はテニス部の練習みられないから、でもあとで家いくね」

跡部は疑問に思ったが、何も言えずただうなづいて見送った。

そうそのときは、まだ旭がしようとしていることがなんなのか分からなかったのだった。

分かっていれば、きっと跡部は止めた。

可愛い彼女と溺愛する妹のために。














Sister**02













旭は、付き合っているうちにうつったんやん?と忍足から指摘された悪人ぽい笑みを浮かべ武蔵森学園の校門に立っていた。

帰っていくのか、生徒たちが旭を不思議そうに見つめては通り過ぎていく。
もちろんその中には訝しいとかそんな意味の視線以外も含まれていたのだが、旭は気付くことなくマイペースに武蔵森を観察していた。

「んー、なかなか立派じゃない。さすが文武両道で有名な私立」

まぁ、ゴージャスさは氷帝にはかなわないけど。と、心の中だけで思って苦笑する。

今頃、景吾はテニスコートで黄色いボールでも追っかけまわしてるんだろうか。
校門によりかかったまま隣接されたテニスコートを眺めて彼氏を思い描いた。
油断すると、違うものを追いかけてる時があるのを思い出して気持ちが焦る。

こなきゃよかったかな、アイツの行動見てたほうがよかったかも...と本気で跡部の心配をし始めた時、前から耳を塞ぎたくなるほどのでかい声が聞こえてきた。
人数は四人だろうか、練習着に英文字でサッカー部と表記されている。
たしか、旭が目指している三上もサッカー部だと情報通を自負する友達が騒いでいたのを思い出して目をこらして歩いてくる男たちをみつめた。
揃いも揃ってなかなかの美形ばかりなのに、目を見張る。

なんかアイツらみたいじゃない、と、いつも騒ぐ仲間たちの顔を思い出して苦笑する。

「先輩、みてくださいよ、校門のところにいるオンナのコ、チョ−いい感じじゃありません?」

そんなあからさまな話をするのなら耳打ちくらいの囁きにしておけばいいのに、当の本人である旭にまで聞こえるぐらいの大声の主を、白の爽やかなシャツを着た、180くらいだろうか大きい男が軽く注意した。

「藤代、お前はちょっと考えてから発言しろ」

諭すような声に、怒られた藤代という男のコがしょぼんと顔をうつむかせながらもいう。
まるで跡部に注意されてるときのジローちゃんみたいだなぁと思いながらも会話に耳を傾ける。

「でも、キャプテン!可愛いんだから仕方ないじゃないですか」

言わないなんて出来ないッス。と、膨れっ面の藤代くんに、今度は違う、ちょっと景吾みたいな雰囲気を漂わせた美形の男のコが罵リと評したほうが正しい言葉を浴びせた。

「てめーは女しかみてねぇのかよ」
「そんなこと三上先輩に言われたくないッス」

衝突まであとちょっとしかないような喧嘩会話を聞いていた旭は藤代少年の呼んだ名前に反応した。


三上って言った?
三上って、もしかしてちゃんが一目惚れしたあの三上?
っていうか、景吾っぽい雰囲気からして、ちゃんタイプだし...。

こいつが噂の三上 亮かぁ...。


マジマジと三上らしき男のコをみつめて、旭は考えにふけった。


確かにかっこいいもんね...楓や優月たちが騒ぐはずだよ。
女ズキだろうなぁ、雰囲気も態度も付き合う前の景吾みたいだし。
いかにも遊び慣れてます、って余裕さもみえるしね。
ちゃんが好きになるのも理解出来る...、でもゴメンね。
ちゃん、あなたの好きな三上くんを、景吾のために試させていただきます!

じゃないと、心配症のちゃんのお兄様に怒られちゃうからね、あたし。


並々ならぬ決意を心に宿して、目前に迫った三上くん率いるその4人に声をかけた。

「三上くんだよね?」

名前を呼んだ三上らしき男が、旭に視線をぶつける。
強くて、揺るぎない二つの瞳。
形のいい唇がゆっくり動いて言葉を作り出した。

「...そうだけど?あんた何?」

挑戦的な三上に、旭はにっこりと忍足が言うところの天使の笑みをむける。

「あたし、君と遊びたいんだよね」

どう、今晩あたり。と、ケータイをちらつかせてみつめた。
いままでたいていの男はこうするだけで堕ちた。
旭はその経験から三上も同じ手でいけると考えたのだった。
もともと、本気で落とす気などないのだ。跡部がいるからという理由もあるが、旭は三上を試しているだけなのだから。

だから、旭は三上が返事をした時心底安心した。

「あー無理。俺もうそういうことしねぇし」

違うの当たれよ、あんたならよりどりみどりだろ?と、跡部みたいな笑顔で告げられた。
そんな三上の態度に、なかなか硬派なんじゃないと満足していた旭の耳に、また大きな声が響く。

「わー三上先輩、断っちゃうなんてもったいないですよっ!」

俺なら即オッケーなのに。と、ぶつぶつ呟いていた藤代くんが突然振り向く。

「ね、俺じゃダメ?」

すでに察知していたのか、また白い清楚なキャプテンと呼ばれた男の人が助けようと口を開いた。

「藤代、お前は...」
「あたし三上くんにしか興味ないから、じゃあね」

茫然とする四人を尻目に、旭はいい報告が跡部にできることを嬉しく思いながら家路を急いだ。



















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追記。


Sisterの続きですね。
旭ちゃんが三上と接触することを、跡部はすっかり忘れてたんですよ。
この駆け引き書いてて楽しかったです。




image song  globe 『seize the light』


up date:2003.09.04