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「なんで……?」
口唇から言葉だけが、こぼれていく。
逢いたかった、世界一逢いたいひとだった。
だけど、終わらせたのに。
がんばって、終わらせたのに。
「なんでいるの…?」
つかんだフェンスが再度ガシャンとゆれる。
景吾は、校舎をみあげたままみじろぎひとつしなかった。
一心に向けられている視線に心が音をたてる。
瞳を凝らして何度見てもあのひと。
あいたかった、あのひと。
「そう思うなら直接跡部に聞いてきなよ」
背中に周助の声が降り注いだ。
そこで、あたしはやっと気づいたんだ。
「いけないって、いけるわけないって…」
声が勝手に溢れていく。
視線がはなせない、景吾から。
「…」
周助から再びそう声をかけられたときだった。
景吾が、校門から中に入ってきた。
いくぶんか早足のようにみえるその姿にため息だけがこぼれていく。
そして、景吾の姿が校舎に完全に消えた瞬間、またも心がつぶされそうなほど痛くなった。
昨日と同じ衝撃。
お願い、目の前からいなくならないで
瞳の下がひりひりする。
上のまぶたが重い。
頭がガンガンと打ち付けてくる。
最悪な状況なのに、それでも景吾を考えた。
何しにきたんだろう…
練習試合の申し込みかなんか…?
そして、ものの五分と経たないうちに、灰色の扉がガァァンと派手に響いて、あいた。
反射の光で顔がよく見えない。
けど、あのチェックのズボン…。
声にならない声がのどをつうかしていく。
息が、できない。
「離れろよ、から」
低い聞いたこともないような、冷たい声がひびいて、うでをひきはがされた。
周助の温かみがきえる。
「…跡部」
周助はそれしか言わなかった。
沈黙が空までもおおっていく。
どれだけ、黙っていたのか、ともかく先に口を開いたのは跡部だった。
太陽がアスファルトに照り付けてはね返る。
「元気だったかよ?」
つい、この間のことで、一週間もたってないのに、そんなあきらかにとんちんかんな問いに、あたしはなぜだか普通に答えていた。
目を真っ赤に充血させながらもうなづく。
「景吾は…何しに来たの…」
瞬間あたしの瞳には、景吾の肩が震えたようにみえた。
再び、妙な空気がひろがっていく。
空なのに、まわりはまっさらな空なのに。
「…お前に逢いに来たんだ…」
静かな景吾の音が体に染み込んでいく。
と、同時に肌がふるえた。
「あたしに逢いに…?」
あたしの声だけが、突き抜けるような空にとけていった…。
△/▽
追記**
じらさせまくって次回に持越しです。
len意地悪だからこういうことすきなんだよね…
image song t.A.T.u.『STARS』
up date:2004.07.24